「きっかけ」
2017年1月作
電車に乗って座席に座っている人を見ると大半がスマホの画面を見つめている。
音楽を聴いているのかテレビを見ているのかゲームをしているのか。
そのコンテンツの内容はわからないが、ほとんど全員がスマホの画面を見つめる光景は時として異様でもある。
これに対して読書をしている人は1割もいない。
新聞を読んでいる人はもっと少ない。
新聞はネットで。
読書をするにはスマホではきついところもあるので、まだまだ紙の媒体が残っているのかもしれない。
でも書店や出版社もビジネスが大変やりにくいのは間違いない。
スマホが普及して画面ばかり観ているようになると若者を中心に「活字離れ」が加速していく。
その影響は学力の低下だけはなく、例えばイマジネーションの喚起能力にも問題が生じる。
その結果、ネットでは収集できない書籍からの情報を得るチャンスを逸して学業レベルやビジネスの質にも影響が出て来る。
いくらイノベーションをと叫んでもネットで出ている程度の情報しか入手できないということで、作り出すものの内容は薄っぺらくなってしまう。
情報の信憑性も怪しく奥行きの浅いアイデアのものになってしまうこと、これ間違いない。
これではいけないのだ。
大阪のとある私立の大学は学生の活字慣れを改善させるためにマンガは収蔵書の3割を占める図書館を整備するのだという。
マンガから書籍に触れてもらおうという思惑なのだ。
ちなみにこの大学は決してFランクの大学ではない。
関西では中堅どころの私立大学であり、屈指のマンモス大学であり、多数の著名人を輩出し、近年はその水産研究の成果でグルメな人たちを感嘆させ、ビジネス分野では地元国立大学を上回る連携研究件数を誇るという、関西だけではなく日本中からの注目を集めている大学だ。
もちろんスポーツは学業以上に一流だ。
その大学をして漫画本をスタート地点として学生の活字慣れを促すのだという。
かくいう私も中校生頃までは読書はあまり好きではなかった。
1970年代なのでスマホもパソコンもなかったから何かを読むとなれば書籍の時代だったわけだ。
このときは単に勉強嫌いだし読書するのが面倒で漫画本以外にはとっつきにくいという感覚があった。
転機が訪れたのは井上ひさしのコント集を読んだとき。
当時、井上ひさしが「てんぷくトリオ」向けに執筆したコント集の文庫本があり、これを読んで私の読書遍歴はスタートした。
マンガではなかったがコントなのであった。
何事も小難しいことを並べて「あれをしよう」「これをしよう」と言われると大抵の人は「そんなことしたくない」「できるかい!」となる。
マンガでの活字慣れ。
時代が時代だけに大学生にもこういう仕組が「読書のきっかけ」として必要なのだと思うと色々考えさせられることが増えてくる。
こういうことも時代の流れだろうか。